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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)1371号 判決 1960年12月08日

控訴人 原告 鈴木嘉津子

訴訟代理人 昌子篤俊

被控訴人 被告 三谷寛太郎 外一名

訴訟代理人 盛川康

主文

原判決を取り消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

本件について当裁判所が昭和三十五年六月九日になした強制執行停止決定を取消す。

前項にかぎり仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人等が被控訴人等と鈴木彦一郎間の東京地方裁判所昭和二十七年(ワ)第六五五九号損害賠償請求事件の判決に基いて、鈴木彦一郎の承継人鈴木フミに対して、その所有として東京都墨田区向島請地町百八十三番の五の宅地九十二坪四合五勺(以下本件土地という)に対してなした強制執行はこれを許さない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の陳述した事実上の主張、証拠の提出、援用および認否は原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

理由

被控訴人等が被控訴人等と訴外鈴木彦一郎間の東京地方裁判所昭和二十七年(ワ)第六五五九号損害賠償請求事件の判決に基いて、鈴木彦一郎の承継人鈴木フミに対する強制執行として、同裁判所に控訴の趣旨記載の本件土地に対する強制競売の申立をなし(同庁昭和三十三年(ヌ)第四三一号不動産強制競売申立事件として係属)、昭和三十三年七月三日競売手続開始決定がなされ、同年十一月二十四日の競売期日において訴外伊草進士が本件土地を競落し、次でなされた同人に対する競落許可決定が確定した上、同年十二月十一日同人より競売代金の支払がなされたことは、いずれも当事者間に争のない事実である。

控訴人は昭和二十三年五月頃本件不動産を鈴木彦一郎から買受けるとの売買の予約をなし、同年末頃予約完結の意思表示をなして、所有権を取得した。その後昭和三十一年八月一日所有権移転請求権保全の仮登記を経由した上、昭和三十三年十二月十六日に本登記手続を了した。よつて、控訴人は本件不動産の所有権に基いて、上記強制執行の排除を求めるため本訴を提起した。被控訴人等は、本件土地に対する強制執行は既に終了しているから、控訴人の本件異議の訴は許されないと主張するので、この点について判断する。

民事訴訟法第五百四十九条によつて第三者が強制執行の排除を求める訴は、強制執行の目的物件について所有権その他の権利を有する第三者が、執行債権者に対し執行の目的物が債務者の責任財産に属しないことを主張し、現に自己の権利の行使を妨げる具体的な執行行為の排除を求めるものであるから、その執行行為が排除を求める利益が存しなくなる段階に進んでしまつた後においては、その目的を缺くこととなり訴の利益を失うものと解するを相当とする。不動産に対する強制執行は民事訴訟法第六百八十六条、第六百八十八条によつて、競落人は競落許可決定の確定によつて解除条件付で目的不動産の所有権を取得するものである。同法第六百八十八条第一項によれば競落人は代金支払期日にその代金等の支払義務を完全に履行しないときは、裁判所は職権をもつて不動産の再競売を命ずべきものとされている。従つて、競落人が代金支払期日にその義務を完全に履行したときは、裁判所は再審事由がある場合のほかは、どんな理由があつても競落許可決定を取消すことはできないのであるから、目的不動産の所有権を完全に取得するものである。もつとも、強制執行手続としては、その後に競売代金について配当手続をなすことと、競落人の所有権の登記の嘱託をなすこと、或は不動産の引渡命令をなすという手続が残されている。しかし、第三者が目的不動産について所有権その他の権利を主張して、第三者異議の訴を提起して強制執行の排除を求めるのは、目的不動産の競売及び競落の排除することを目的とするもので、上記のような配当手続登記手続又は引渡手続等のみの排除すること若しくは目的物件の所有権確認を目的としているものではないから、上記のように競落人が競売代金等の支払義務を完全に履行したときは、第三者は右目的不動産の所有権その他の権利に基いて、その目的不動産に対する強制執行の排除を求める利益を失つたと解するを相当とする。しかしながら競売の目的不動産が債務者の所有に属せず第三者の所有に属する場合には、競落人が競落代金その他を完納したからといつて、第三者はその所有権を失うことにならないのはもちろんであるが、この場合競落人が所有権を主張する場合には、別訴で競落人を相手方としてその不動産がいずれの所有に属するかを争うべきで、第五百四十九条で強制執行の債権者を相手に争つても、法律上全く意味がないといわなければならない。

本件においては、上段認定のように、本件土地については競落人の伊草進士が昭和三十三年十二月十一日競落代金を支払つているのであるから、控訴人は上記の理由によつて、たとえ、その主張のように本件不動産の所有権を取得したとしても、上段説示のように、本件土地に対する強制執行行為の排除を求める利益は有しないものといわなければならない。よつて控訴人の本件訴はその余の争点について判断するまでもなく、その利益を欠く不適法のものとして排斥を免れない。

それならば、控訴人の本件不動産の所有権の存否について判断した上、控訴人の請求を棄却した原判決は失当であるから、民事訴訟法第三百八十六条によりこれを取消して、本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担について同法第九十六条第八十九条強制執行停止決定の取消について同法第五百四十八条第一項第二項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 伊藤顕信 裁判官 杉山孝)

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